球速は「腕を速く振る」だけで生まれるものではなく、下半身から始まったエネルギーが、体幹を通って、最終的にボールへ乗るまでの“回転のバトンリレー”の完成度で決まります。ご提示の4指標は、そのリレーが機能しているかを最も鋭く切り分けてくれる、いわば上級投手の共通言語です。しかも重要なのは、どれか1つが突出していれば良いのではなく、順番とタイミングが噛み合ったときに一気に球速が伸びる点にあります。

まず肘伸展角速度です。平均が約2200°/秒で、150km/h級では2500°/秒を超えやすいという見立ては、現場感覚とも整合します。ただし、ここを「上腕三頭筋で肘を伸ばして稼ぐ速度」だと捉えると伸び悩みます。高速域の肘伸展は、筋力で押し切るというより、体幹回転と上腕の運動が生む“相互作用トルク”が大部分を作り、肘はその流れに乗って一気にほどけるように伸びる。つまり肘が速い投手ほど、肘そのものを頑張っているのではなく、肘が頑張らなくても伸びてしまう状況を、下半身と体幹で先に用意しています。肘伸展が上がっているのに球速が伸びない場合は、肘が前に出るタイミングが早すぎて、肩の回旋エネルギーを受け取る前に“ほどけてしまっている”ことが多いです。

次に上腕回旋最大速度、いわゆる肩の内旋速度です。投球の最終局面でボールに直接エネルギーを渡す“最後の歯車”であり、ここが高い投手はボールの押し出しではなく、回旋の角速度でボールを運びます。ただ、肩の内旋を速くする意識は危険で、狙うべきは「外旋でしっかり“溜まり”、前腕が遅れてついてきて、最後に勝手に回る」状態です。外旋で作った張力と、体幹の回転が作る上腕の遅れ(ラグ)が噛み合うと、肩は“回そうとしなくても”最大速度に到達します。逆に、肩内旋を意識しすぎると、肘が下がる、前腕が早く返る、リリースが前に抜けるなどの形で、球速より先に肩肘の負担が増えやすくなります。

三つ目は体幹回転最大速度です。これは下半身で生んだ運動量を、上肢に渡す中継地点の性能そのものです。体幹回転が速い投手は、単に腹筋が強いのではなく、骨盤回旋→胸郭回旋→肩の回旋へと“ピークが順番に立つ”いわゆるキネマティック・シークエンスが明確です。ここでよく起きる勘違いは、「体幹を速く回せば球速が上がる」ではなく、「速く回れる体幹は、先に回るべきものが回っている」ことの結果だという点です。下半身のブレーキが弱い、踏み込みが流れる、骨盤の回り始めが遅い、といった上流の乱れがあると、体幹回転のピークが遅れ、肩と肘が“取り返す動き”になりやすい。結果として、数値上は頑張って回っているのに、球速効率は上がらない、という現象が起きます。

四つ目の骨盤―胸郭回転の時間差(いわゆる分離・セパレーション)は、球速に対して最も説明力が高いことが多い指標です。時間差があるということは、骨盤が先に回り、胸郭が一瞬遅れて、捻りが“蓄積”され、その解放が胸郭回転ピークと肩回旋へつながるということです。大事なのは角度そのものより、「いつ、どこで、どれくらいの時間“遅れ”を保てたか」です。着地直後に胸郭が一緒に回ってしまう投手は、溜めが作れず、肩肘が出力の主役になりやすい。一方で、遅れを保てる投手は、肩は最後に仕事をするだけで済むので、球速が上がりやすいのに故障リスクも相対的に管理しやすくなります。

そして最後に「筋肉量が多く体重の重い選手ほど高い値を示す傾向」についてです。これは単純に“重いほど有利”というより、重さがある投手は地面反力を受け止める土台が大きく、下半身の制動と回旋トルクを作りやすい、という構造的メリットが出やすいと考えるのが自然です。筋量はエンジンですが、球速はエンジン単体ではなく、地面に力を預けて回転へ変換し、遅れを保ち、最後に肩肘へ渡す“機構”の性能で決まります。だからこそ、増量や筋肥大が球速に直結するのは、骨盤回転・体幹回転・分離タイミングが同時に整っている場合に限られます。逆に機構が未完成のまま体だけ大きくすると、上流の伝達効率が低いぶん、末端(肩肘)に負担が集まりやすい。球速を伸ばす最短ルートは、体を大きくすること自体ではなく、4指標が同じ方向を向くように“回転の順番と遅れ”を設計し、その上で筋量を出力に変えることです。

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