野球で「体格が大きい選手は有利だ」と言われるのは、単なる印象論ではありません。投球やスイングは、短時間に大きな力を生み、順番よく体の各部位へ受け渡し、最後にボールへ伝える運動です。つまり、力学と生理学の制約を強く受けます。その制約の中で体格、とくに除脂肪体重が大きいことは、出力の上限と再現性の両方に関わってきます。
まずエネルギーシステムの観点です。投球やフルスイングのような最大努力は、主にATP-PC系が支える領域にあります。ここで重要なのは「持久力があるか」ではなく、「一瞬でどれだけ高い出力を立ち上げられるか」です。筋量が多いほど、ATP-PC系を使って駆動できる“エンジンの総量”が増えやすいことに加え、筋内でのエネルギー利用や出力発揮に関わる要素が整いやすいと考えられています。結果として、初速の立ち上がり、インパクトまでの加速、回転運動のキレといった“短時間の強さ”が、体格の裏付けを得て安定しやすくなります。ここで誤解しがちなのは、体格が大きいほど「すぐ疲れない」わけではない点です。むしろ重要なのは、毎回の試行で同じ強度の出力を繰り返せるだけの余裕が生まれることです。余裕があると、フォームが崩れにくく、狙ったタイミングで力を出しやすくなります。
次に、トレーニング適応という“伸びしろ”の話です。身長は変えにくい一方で、筋肉量は設計次第で伸ばせます。そして近年の海外研究や現場の潮流では、ただ重いものを挙げるだけではなく、出力の質を管理する方向に進んでいます。その代表がVBTで、挙上速度を手がかりに疲労度と刺激量を調整し、パワーを狙い撃ちします。野球のパフォーマンスは、筋力そのものだけでなく、力を“速く”出す能力、つまり力-速度のバランスが効いてきます。VBTはこのバランスに介入しやすく、除脂肪体重の増加と同時に、回旋や踏み込みで必要な「瞬間トルク」を引き上げる設計がしやすいのが強みです。さらに、筋量が増えると単にパワーが上がるだけでなく、動作の選択肢が増えます。たとえば下半身主導で粘れる、体幹で姿勢を保てる、最後の加速局面で前腕や手首に頼りすぎずに済む。こうした“逃げ道の少なさ”が減るほど、技術練習で作った形が試合でも残りやすくなります。

そして構造的安定性、障害予防の視点です。「体重が重いほうが関節に悪いのでは」と思われがちですが、ここでも鍵は体脂肪ではなく筋量です。筋肉は衝撃と回転ストレスを受け止める“緩衝材”であり、“制動装置”でもあります。投球では肩・肘に減速局面が必ず訪れますし、打撃でも回旋の末端で急な制動が起きます。このとき筋量と筋力が不足していると、関節や腱にストレスが集中し、繰り返し負荷に耐えにくくなります。逆に筋が十分に働けば、関節に入るストレスを分散でき、長期的にパフォーマンスを積み上げる条件が整います。もちろん、筋量が増えれば自動的に安全になるわけではありません。可動域、左右差、投球・打撃のメカニクス、練習量の設計が噛み合って初めて「強い体格」が守ってくれます。ただ、守れる可能性の母数が増える、というのが体格の本質です。
結局のところ、投手では身長がテコと加速距離を通じて球速の天井に影響し、体重、とくに除脂肪体重が運動連鎖の起点として出力の総量と安定性を底上げします。打者では、体重と筋量がスイングの角加速度と衝突の強さの両面から、打球速度と長打力に直結します。だからこそ「ただ増やす」のではなく、筋量を増やし、その筋を速く賢く使えるようにする。体格はポテンシャルであり、トレーニングと技術で“使える形”に変換して初めて武器になります。ここを押さえると、体格づくりは才能の話ではなく、再現性を買うための科学的投資だと見えてきます。
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