野球で体格の大きい選手が有利になりやすいのは、感覚論というより物理法則に近い話です。ご提示の「160km/h以上を投げた日本人投手」の例で、190cm以上や90kg以上が多数を占めるという事実は、サンプルの偏りはあっても“高出力を生む身体条件”が球速に絡むことを直感的に示します。球速や打球速度は、フォームの巧拙だけでなく、身体が生み出せるエネルギーと、それをボールに移す効率で決まるからです。
投手にとって体格が効く第一の理由は、長い四肢がもたらす「作業距離」と「時間」です。腕が長ければ、加速局面でボールが加速できる道のりが伸び、同じ回転角度でも末端速度を高めやすくなります。さらに近年のモーションキャプチャ研究では、球速の高い投手ほど骨盤・体幹・上肢へと角運動量を段階的に受け渡す“全身の連鎖”が大きく、下肢や体幹の寄与が無視できないことが繰り返し示されています。要するに、腕だけで投げているのではなく、地面反力を使って全身でボールを押し出している。その「全身で生む出力」の上限を押し上げる要素として、筋量を載せられる骨格や、力を受け止められる体重が効いてきます。

第二の理由は、体格が「剛性」と「減速能力」を支える点です。速く投げるには速く腕を振るだけでは足りず、投げ終わりに大きなエネルギーを安全に受け止める必要があります。リリース直前に末端速度が上がるほど、肩や肘には高い負荷がかかり、体幹・股関節まわりの安定性と、ブレーキとして働く筋群の能力が要求されます。大きい身体はそれだけで有利というより、必要な筋量と支持基盤を確保しやすい、と捉える方が正確です。だからこそ海外のデータでも、身長や体重そのものに加えて、ジャンプ能力、スプリント能力、下肢パワーと球速の関連がたびたび報告されます。体格は“エンジンの搭載余力”であり、同時に“シャーシの強度”でもあります。
打者側でも構図は似ています。長打力を決める中心指標は「バットスピード」と「インパクトの質(芯で当てる確率、入射角、フェース管理)」ですが、体重、正確には“機能的な体重”はバットスピードと打球初速の上限を押し上げやすい。理由は単純で、地面を強く押して回転を生み、体幹でトルクを伝え、最後にバットへ速度を乗せるには、下肢・殿部・体幹の筋断面積と、力を逃がさない剛性が要るからです。さらに衝突という観点でも、打球速度はインパクト時の相対速度と実効質量の影響を受けます。もちろん「重ければ飛ぶ」と短絡はできませんが、強い回転を生むための筋量と安定性を確保しやすいという点で、体格が長打に寄与する余地は大きいのです。
ただし、体格は万能の切り札ではありません。大きい身体は可動域やタイミング調整の難しさ、疲労や故障リスクの増加とも背中合わせです。球速も長打も、最終的には“エネルギーをボールへ移す効率”で勝負が決まります。体重を増やすなら、走れる、止まれる、捻れる、そして再現できる、という条件を満たした機能的な増量が必要になります。投手なら股関節主導の並進と回旋、体幹の回転タイミング、肩肘に負担を残さない減速戦略まで含めて最適化する。打者なら下肢で作った回転を上体で受け止め、手先に逃がさずバットへ速度を乗せる。体格差が“有利不利”として見えるのは、この最適化に耐えうる土台を作りやすいからで、結局は身体と技術が同じ方向を向いたときに、数字として現れてくるのだと思います。
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